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広島地方裁判所 昭和42年(行ウ)9号 判決

原告 株式会社タカノ橋会館

被告 広島東税務署長

訴訟代理人 坂本由喜子 後藤健公 ほか一名

主文

被告が原告に対し昭和四一年二月二八日付でした、(1)原告の昭和三八年七月一日から昭和三九年六月三〇日までの事業年度分の法人税に関する更正決定、(2)原告の昭和三九年七月一日から昭和四〇年六月三〇日までの事業年度分の法人税に関する更正決定(広島国税局長が昭和四一年一二月二四日付でした裁決による一部取消後のもの)、(3)源泉所得税の告知処分及び加算税賦課決定(広島国税局長が昭和四一年一二月二四日付でした裁決による一部取消後のもの)をいずれも取消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

一  原告主張の請求原因のうち第一ないし第四項の事実及び被告の主張のうち原告会社がいわゆる同族会社で代表者韓又岩が経営の実権を握つている個人経営的法人であること、原告会社と中央会館との記帳売上金額の比率が別表二のとおりであることは当事者間にに争いがなく、別表一の出金、入金の額については原告において明らかに争わないので自白したものとみなす。

二  原告は、本件においては推計によつて原告会社の所得金額を算出することは違法であると主張するので検討する。

〈証拠省略〉によれば、広島東税務署調査官藤原知義が昭和四一年始頃原告会社の昭和三八、三九年度分の法人税調査をしたところ、所得計算の基礎となる日計表の売上欄の記載の書直しが多数発見され、その数は右二事業年度における全日計表の三分の二程度にも及んだこと、右書直しされたもののうちの二分の一程度は書直し前の数額が判読可能であり、書直し前と書直し後との差額の合計は約一、三五〇万円であつたこと、また、右判読可能なものについては、書直し後の数額が書直し前のそれよりいずれも少額となつており、かつ右各差額に一、〇〇〇円未満の端数が全くなかつたこと、原告会社代表者である韓又岩個人は、右二事業年度の期間中同人の個人所得に属すると認められる報酬、不動産収入等の収入だけでは賄い得ない多額の金銭の支出をしていること、藤原知義は、右調査にあたり、売上金額算出の其礎となる玉売機に付置してあるメーターの記録を提出するよう原告会社に求めたが、原告会社はこれを提出しなかつたことが認められる。そして〈証拠省略〉によつては書直しされたかどうか、あるいは書直し前の数額が不明なものであつても、同一期日の日計表原本によれば書直しされていると見られるものが相当あることを認めることができる。また、〈証拠省略〉は昭和四六年九月及び一一月に撮影されていることが認められ、そうすると右甲各号証は本件各日計表が作成されてから七年ないし八年経過後に撮影されたものであることが明らかである。右事実に照らせば、〈証拠省略〉はいまだ前記認定を左右するに足りず、その他前記認定を覆えすに足りる証拠はない。

そうすると、原始記録である日計表にもとづいて記帳された備付帳簿によつては原告会社の所得を算定することができないから、被告が推計により原告会社の所得を算出したことはやむを得なかつたものといわなければならない。

三  そこで、被告が原告会社の法人税を算出するにつき、原告会社代表者韓又岩個人の資産の増減計算を行い、これを基礎として原告会社の所得金額を推定することが許されるか否かについて検討する。

原告会社がいわゆる同族会社で代表者韓又岩が経営の実権を握つている個人経営的法人であることは当事者間に争いなく、〈証拠省略〉によれば、韓又岩は本件二事業年度の期間内に多額の個人的な金銭の支払等をしているが、それに要した額は、右期間中に同人が受けた報訓、不動産収入等の同人の個人的諸収入によつては賄いえないものであつたこと、右同人の個人的諸収入によつて賄いえない部分の資金源となりうるものは同人の経営する中央会館(但し、同会館は昭和三九年八月一一日株式会社組織となつた。)及び原告会社以外にはなく、かつ、中央会館及び原告会社の日計表売上欄には多数の書直しがあり、多額の売上除外がなされた形跡があること、また、同人の家族についても右多額の支出等を賄いうる程の個人的収入はないことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定事実のもとにおいては、被告が原告会社以外の者の財産等から課税標準を推計することも、法人税法一三一条の趣旨に照らし許されるものと解される。

四  つぎに、被告のした推計の内容について検討する、

被告は、本件二事業年度の期間中における韓又岩個人の資産負債増減計算を行い、同人の純資産の増加額及び利息等の支払額から原告会社及び中央会館の売上げに基因せず、同人の個人分所得であることが明らかな利子、不動産収入等の金額の全部を控除した残額、いわゆる出金超過額に、原告会社と中央会館の記帳亮上金額の割合を乗じて原告会社の所得金額を算出したというのである。

そこで考えてみるに、前示認定事実のもとにおいては、右出金超過額(額の当否は別として)は原告会社及び中央会館の売上除外金からなるものと推認してさしつかえない。そして、被告は、右出金超過額に含まれる原告会社の所得を算出するために、原告会社と中央会館の記帳売上差額の比率に応じて右出金超過額を按分したというのである。そこで、右算出方法を正当として是認しうるためには、原告会社と中央会館との売上除外が同一の比率によつて行われていることが前提となる。しかしながら、このことを認めるに足りる証拠はなく、また、経験則上そのように推認すべきものとも考えられない。証人石田金之助(第二回)は、売上除外は売上金額の高に応じて行われるのが通常である旨証言するが、〈証拠省略〉によれば、原告会社の売上除外は、売上金額の多寡に関係なく、一定の額をもつてなされていることが認められ、右認定に反する証拠はない。そうすると、原告会社は韓又岩が経営の実権を握つているいわゆる個人経営的法人であり、また中央会館は同人の個人経営であつたのを昭和三八年八月一一日株式会社組織に変更したにすぎないという前示事実のもとにおいては、中央会館においても原告会社と同様に売上金額の多寡には関係なく、一定の額をもつて売上除外がなされたと推認するのが相当である。仮にそうでないとしても、原告会社の売上除外自体が右のとおり売上金額に比例せず、一定の額をもつてなされている以上、被告の記帳売上金額の割合により按分してした推計方法は合理性を欠き、したがつて被告が算出した原告会社の所得のうちに中央会館の売上除外金が混入している疑いなしとしない。

五  源泉所得税の告知処分及び不納付加算税については、被告の主張事実を認めるに足りる的確な証拠はない。

六  以上の次第で原告の本件各請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 五十部一夫 上原茂行 若林昌子)

別表〈省略〉

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